よく読まれている記事
売り上げが8000万円を超えたら医療法人化した方が良いって本当?

I先生
昨年の売り上げが約9000万円となり、税金の負担も重くなってきたので顧問税理士に相談したところ医療法人化を勧められたのですが、医療法人化にかかる手間や費用に比べて、どの程度のメリットがあるのかがわかりません。本当に私は法人化した方が良いのでしょうか? 
I様プロフィール

歯科開業医(53歳)

奥様(48歳)も歯科医師

お子様(10歳、8歳)

売上9000万円

チェア4台

吉田
売上が8000万円を超えると医療法人化した方が良いというのは、少し古い考え方で、I様の場合は、現時点では医療法人化するメリットが少ないと考えられます。その理由を詳しくご説明しましょう!

 医療法人化すると節税になると言われている理由

医療法人化すると、節税になる理由は主に下記の3つです。

  • 所得分散がしやすい
  • 所得税より法人税の方が安い
  • 相続税対策にもなる
  • 退職金積立が容易に

では、I様の場合に置き換えてそれぞれの効果を検証してみましょう!

 医療法人化すると更なる所得分散は可能か?

I様の場合は、奥様も歯科医師かつ常勤で働かれているため、奥様の給与設定はI様の80%程度。さらに同居されているご両親にも専従者給与として月15万円ずつ支払われているなど、十分に所得分散はできていると考えられます。そのため、医療法人化して更なる所得分散による節税効果が見込めるかというと、大きな効果は期待できない可能性が高いと言えるでしょう。

例えば、医療法人化をして、I1000万円、奥様1000万円、ご両親各240万円の役員報酬とし、残りを医療法人に残すようにしたとしても、現在よりトータルで支払う税金が年間100万円安くなる程度です。このレベルでは、後に挙げるデメリットを凌ぐメリットがあるとは言えません。

 相続税対策を目的とした医療法人化の必要性は?

I様の場合は相続税対策を目的とした医療法人化を検討する価値はあるかもしれませんが、まだお子様はお二人とも小学生ですので、どの道に進まれるかは不明とのこと。医療法人の後継者は医師もしくは歯科医師である必要があるため、どちらかのお子様が、医学部や歯学部に入学されることが決まってから医療法人化を再検討されることをおすすめしました。

 医療法人化すると退職金積立がしやすくなる?

個人事業主が行える退職金積立は、小規模企業共済や確定拠出年金などに限られるため、それらを使って準備できる退職金には限界があります。例えば、開業から25年間、小規模企業共済と確定拠出年金を活用してそれぞれの上限額を積み立てた場合の金額は、運用益込みで40005000万円程度になるでしょう。

医療法人化することで、小規模企業共済や経営セーフティー共済の加入資格はなくなりますが、法人は生命保険を活用して、その保険料の一部を損金計上しながら退職金を積み立てることが認められていますので、退職金の積み増しが可能になるというわけです。

しかし、2019年に節税保険とも呼ばれた法人保険の税務処理方法が変わり、大きく節税ができて、返戻率も高い法人保険は姿を消してしまいました。掛け金の全額を所得控除することができる小規模企業共済や経営セーフティ共済に見合う節税方法は滅多に見つからないでしょう。そのため、生命保険を活用して節税することを目的とした医療法人化はお勧めできません。

 医療法人化のデメリット

医療法人化のデメリットは以下の3つです。

  • 設立に手間とお金がかかる
  • 運営にかかる手間とお金が増える
  • 解散する場合のリスクがある

こちらも、I様の場合に置き換えて詳しくお伝えしましょう。

 医療法人化のネックはイニシャルコストとランニングコストの増加

医療法人化はするにも、してからもお金がかかります。一般的に医療法人化をするために、約100万円の初期費用がかかり、税理士の費用や社会保険料など運営にかかる費用も増えます。先述のように、I様の場合、医療法人化の節税効果は100万円程度ですので、増える費用でその効果は打ち消され、結局手間だけがかかるといった結果になりかねません。

 医療法人を解散する場合の残余財産は国または地方公共団体に帰属する

医療法人の後継者は医師もしくは歯科医師でなければなりません。

もし、お子様が二人とも医療とは別の道に進まれた場合、残る道は解散もしくは売却ですが、どちらの場合も、法人の資産を最後は退職金で取り切るための計画が必須です。退職金運用をする場合には次で説明する上限額を意識しておく必要があります。

年齢的に退職金を大幅に増やすことが難しい

I様は現在53歳で、今から医療法人化したとすると、リタイアを希望されている時期(70歳)まで約15年しかありません。そして、受け取れる退職金には上限が決まっています。その上限額は次の計算式で求めることができます。

最終報酬月額×勤続年数×功績倍率(+特別功労加算)

功績倍率は医療法人の理事長で2.6~2.7、副理事長で2.0程度で計算されることが多く、特別功労加算は上記計算式で算出した上限額30%以下とするのが一般的です。

最終報酬月額100万円、理事長(功績倍率2.7)、在任期間15年、特別功労加算なしと仮定すると、

100万円×15年×2.7=4050万円

となり、個人開業医の場合の(小規模企業共済や確定拠出年金)の上限額と大きな差がないことがわかります。

最終報酬月額を上げて調整する方法もありますが、退職金を準備できる期間が長くないことを考えると、多額の退職金を受け取って、帳尻を合わせることは難しいと考えられます。

 まとめ

I様の場合は、現時点で医療法人化を行っても、総合的に見て手残りを増やす効果は少なく、逆に手間が増える可能性が高いため、一旦医療法人化を見送り、さらに売り上げが大幅に増えた際やお子様への継承が決まった際に再検討されることになりました。

今回お伝えしたI様のように、売り上げが一定ラインを超えていても、医療法人化するメリットがほとんどない場合もあります。これから医療法人化を検討される方は、ご自身にとってどのようなメリットとデメリットが存在するのかをしっかり理解した上で、決断されることをお勧めします。

Twitterでフォローしよう

おすすめの記事