法人保険を活用して節税することが難しくなっている昨今、医療法人化するメリットが大きい方は減ってきています。
しかし、2021年現在でも、医療法人化すべき人は一定数いらっしゃいます。先日お問い合わせをいただいた診療内科開業医のM先生の事例を基に、医療法人化した方が良い人の特徴についてお伝えします。
心療内科開業医(開業1年目)
医療法人化すると税金をコントロールしやすくなる
日本は累進課税制度を採用しているため、所得が高くなると、税金で取られる割合が高くなります。
そのため、例えば、1人で5000万円の報酬を受け取った場合と、家族で3000万、1000万、1000万と分けて受け取った場合とでは、世帯年収は同じ5000万円ですが、支払わなければならない税金の合計額に500万円以上の差が生まれることも珍しくありません。
所得を分けるだけで、そんなにも節税できるのなら、分けた方がお得だと考えられる方が多いのですが、注意点が存在します。
例えば、均等に分けることが一番税金的な面からはお得なのですが、常勤の医師(院長)と、特に資格をお持ちではなく、時々受付を手伝っている方(奥様)の給与を同じにすることは、世間一般の常識から乖離しているためNGです。そんなことをしてしまうと、間違いなく数年後に税務調査官がやってきて、追徴税を課されることになるでしょう。そうなれば、本来払うべき金額よりも多くの税金を払わなければならなくなるため本末転倒です。
M様の場合は、奥様が看護師資格をお持ちで、フルタイムで医院を手伝われているため、現状500万円の専従者給与をもう少し増額することはできそうですが、一般的に考えて1000万円以上の給与を受け取っている看護師がほとんどいないことからも、その昇給幅と、それによって得られる節税効果は限定的です。
しかし、奥様が医療法人の役員である場合は話が変わります。
役員報酬は、その人がどんな仕事をしているかというよりも、その人の責任に基づき設定されるため、特に資格をお持ちではない奥様に1000万円以上の役員報酬が支払われているケースも珍しくありません。
また、現在時々病院の経理等を手伝ってくださっているというお母様を役員にし、その報酬を増やすことも可能です。
さらに心療内科で月の売り上げが700~800万円程度で推移し、利益率が50%を超えていることからも、医療法人化せずに税金をコントロールするのは難しい旨をお伝えしました。
追加で、奥様から、M様は稼いだら稼いだだけ使いたくなる性格で年収が高くても全然貯金ができないというご相談を受けていたため、役員報酬を1800万円とし、それ以外の資金は法人に強制的に残して退職金等の運用に充てる仕組み作りを提案しました。
一般的に医療法人化すると良いとされる利益率の目安は30%程度と言われています。
もし、この目安をM様のように大きく超えている場合には、後継者がいないケースでも医療法人化を検討する価値は十分にあるでしょう。
医療法人化すると退職金積立に有利
法改正により法人保険を活用して節税することは難しくなりましたが、法人保険を活用して退職金の積み立てをすることは今後も可能です。今まで厚生年金・共済年金の加入期間が短く、現状退職金として受け取れるものが確定拠出年金のみのM様にとって、一部経費にしながら退職金の積み増しができるようになることは大きなメリットの1つと考えられるでしょう。
このまま個人開業医として経営を続けて、現在加入されている確定拠出年金の積み立て(満額6.8万円/月)に加えて、個人開業医が加入できる小規模企業共済に月7万円ずつ積み立てたと仮定しても、その退職金は60歳時点で5000万円ほど(ご夫婦2人分の合計)です。
月の生活費がご夫婦で30万円程度の方で、厚生年金加入期間の長い場合であれば、この5000万円の退職金でも生活レベルを変えることなく余生を送るのに十分ですが、M様の場合は厚生年金(共済年金)の加入期間が短く、月の生活費が100万円を大きく超え、お車や時計など趣味関連の支出も非常に多いようですので、退職後10年以内に資金が枯渇してしまう可能性が高いと思われます。
60歳セミリタイア(診療日数を週3~4日に減らす)、70歳リタイア、ご夫婦ともに90歳まで生きると想定した場合、現状の生活を維持するために準備しておきたい退職金は、ご夫婦で3.2億円と試算できましたので、その資金を法人保険を活用して医療法人の中で準備しておかれることをお勧めしました。
まとめ
後継者がいない場合など医療法人化に不利と言われるケースでも、M様のように、利益率が高い方や、退職金等を十分に準備できていない方などは、医療法人化するメリットがあると考えられます。
ただし、上記2つの条件を満たしていても、あと5年で引退するといった方であれば向かないなど他の条件も見たうえで判断しなければなりませんので、迷われた場合は専門家にご相談されることをお勧めします。