昨日の日経新聞にショッキングなニュースが載っていました。
名義変更プランなどと呼ばれる、逓増定期保険を使った節税スキームにメスが入るという内容で、2019年以降に逓増定期保険に加入した人が対象となる見込みのようです。
これが、なぜ波紋を呼んでいるのか?というと、2019年といえば、法人名義で加入する保険の経費計上のルールが厳しくなったバレンタインショックが起こった年です。実は、その時にこの名義変更スキームにもメスが入るのではと言われながら、結局入らなかったんです。それが今になって、規制すると…。個人的には、泳がしていたのかな…という印象を受けてしまいます。
まだ検討に入った段階であるため確定情報が多くないのですが、現時点で分かっていることと、今後取れる可能性のある選択肢についてわかりやすく解説していきましょう。
名義変更プランとは
今回のニュースを深掘る前に、そもそも、名義変更プランとはどのような節税スキームだったのかからお伝えしましょう。
世の中の中小零細企業の中には、節税を主目的に設立された会社が実は少なくなく、最近では『マイクロ法人』『プライベートカンパニー』『一人法人』などを使って節税することを推奨する書籍が多く出版されているほどです。
節税のために法人が使えるのは、個人の最高税率(事業税込みで60%)より法人の実効税率(20~33%程度)の方が大幅に低いためで、法人税の課税対象とすることで税金が安くなり、さらに個人と法人で所得を分けることによりもっと税金が安くなるんです。この仕組みを使った節税スキームは高額納税者が合法的に行使できる権利で、無駄な税金を極力払いたくないと考える多くの経営者が行っています。
ここで問題となるのが、社長だからといって、会社のお金を全て自由に使えるわけではないということです。
そのため、個人的にお金がいるとなった場合、一旦法人に貯まっている利益を個人に移す必要があります。そこで使われたのが生命保険の名義を変えるというスキームでした。しかも、この手法を使うと節税にもなると…控えめに言って最高ですよね。
『法人から個人に資産を移したい』『税金を安くしたい』と願う経営者は少なくないため、非常にこの手法が流行ったのです。
この手法に用いられた、逓増定期保険は、最初の3~5年は返戻率が10%以下と非常に低く、4~6年目にその返戻率が80~90%まで跳ね上がる商品設計になっていました。
例えば、年間の保険料が1000万円、4年目の返戻率5%→5年目の返戻率85%(ここが返戻率のピーク)という商品があったとしましょう。
会社は1~4年目に1000万円ずつ、計4000万円の保険料を支払います。
保険の価値は、解約返戻金の金額であるため、4年目の価値は4000万円×5%の200万円です。
この200万円で法人から個人に保険を売り、個人で5年目の保険料を払った上で解約すると、5年目の返戻率は85%ですので4250万円戻ってくる、もちろん税金はかかりますが、保険の解約返戻金は一時所得のため、役員報酬として受け取る場合の半分程度しかかかりません。
つまり、個人の目線で見れば、2年間で1200万円払って、4250万円が手に入り、(税率50%とすると)750万円の税金を支払うことになるので、たった2年で手元資金が2300万円も増えるのです。まさに錬金術ですよね。
また、法人の目線で見ると、この保険の経費処理は、最高解約返戻率が85%であるため、40%損金計上(経費になる)、60%資産計上です。
つまり4年目までに4000万円×60%で2400万円の資産が法人にあり、それを200万円で個人に売るので、法人は2200万円の損をする計算です。
このように損をすると、その損失を計上することで、法人税の節税になります
個人が法人以上に得をしていて、さらに法人税の節税にもなるのがこの名義変更スキームだったのです。
何が変わるのか?
今回メスが入ると言われているのが、保険を法人から個人に名義を変更する場合の評価額の計算です。
今までは、解約返戻金の金額がその評価額でしたが、
解約返戻金額が資産計上額の70%未満の場合→資産計上額
解約返戻金額が資産計上額の70%以上の場合→解約返戻金額
で計算することに変わるのです。
名義変更スキームに用いられていた保険は上のパターンです。
先ほどの保険の経費処理を例に挙げると、60%資産計上でしたので、
4年目に法人から個人に保険を売る際の価格が2400万円になるということです。
そうなると…
個人は4~5年目の2年間で3400万円払って、5年目で4250万円受け取り、(税率50%であれば)200万円の税金を払うため、一応650万円の得になります。
一方で法人は2400万円の価値のある資産を2400万円で売っただけなので、経理上は4年目に特に損も得もしない計算になりますが、そもそも4000万円の保険料を払っているので、4年間で1600万円損金算入して節税できた分を加味しても1000万円以上の大損をする計算です。
個人が少し得をしても、法人がそれ以上に損をしてしまうので、これでは、名義変更スキームは機能しません。
私が泳がされていたと感じたのは、これまでの名義変更スキームが使うためには、加入から3~4年経過して返戻率が跳ね上がるタイミングを待たなければならず、今まさにその時を待っていた方が多くいると思われるからです。
どのように対処すべきか?
まだ、どのようにルールが変わるのかが確定していないため断言はできませんが、もし、該当する時期に逓増定期保険に加入された方が検討できる出口は2つです。
1つめは、名義変更をしないという出口。
あくまでも保険商品ですので、保障効果のためと割り切って加入を継続し、法人で返戻率がピークになるのを待って解約して受け取る方法です。もし、この時期と退職時期が近ければ、退職金として個人に支払い退職所得控除を受けるという方法も検討できるでしょう。
もう1つは、医療法人からMS法人などの別法人に売るという手法です。
今回の速報では、あくまでも法人→個人の名義変更が対象のようですので、別法人に売るというのが次の抜け道になることも十分考えられます。
この方法の問題点は、既にMS法人など別法人をお持ちの方でなければ、新しく作る法人の運営コストがかかることです。さらに、正直こういった抜け道はすぐに潰されることが多いため、名義変更プランのためだけに新たな法人を作るのはあまりお勧めできません。もし新しい法人をつくろうとお考えの場合は、もし名義変更プランが無理になっても別の方法で法人を活用する方法をしっかりと定めたうえで、勝てる勝負をしてください。
まとめ
ある節税手法が流行るとすぐに国に潰されるという鼬ごっこは今に始まったことではありません。
今回の名義変更スキームのように、錬金術のような節税スキームが使えるのは一時的ですし、今回のように、やりすぎると後出しじゃんけんをされて大損するリスクが大きいのも事実です。
個人的に2019年以降、逓増定期保険の販売を行っていなかったため、私自身が加担する結果にならずに一安心している部分はあるのですが、今回の騒動で、クレームが多く発生する保険会社も少なくないと思われるため、明日は我が身と気を引き締めなければと感じています。
節税を検討される場合は、その時々の流行りやグレーだと言われている手法ではなく、極力長く合法的に活用されている仕組み(例えば所得分散や税率の違いを利用するもの)を活用して、長期的な目線で安全に節税に取り組まれることをお勧めします。