奥様(65歳)
お子様(長男:38歳、長女:33歳)
①遺言書のデメリット~遺言書は死後に効力を発揮する~
遺言書が効力を発揮するのは、遺言書を書いた本人が亡くなった後です。たとえ、認知症になって意思決定ができなくなったり、重体になって意識がなくなってしまったとしても、本人が生きている限りは、遺言書は効力を発揮しません。
以前であれば、認知症などで本人が意思決定できなくなった場合には、親族が後見人となって、預貯金の手続き等が行えたのですが、近年では一定以上の財産をお持ちの方であれば親族が後見人になることは認められなくなってきています。本人の生活資金や介護費用であっても後見人の承認を得なければ引き出すことができず、諦めて子が負担しなければならなくなっているケースも増えています。介護のための資金であっても自由に本人の預貯金を使うことができないのは、後見人が財産の保全を最優先に動くためです。例えば本人の介護費用や思い出作りのための旅行費用など、本人に判断能力があれば望んだであろうことにも使用できる限度が設定されているため、どうしても家族が負担しなければならない費用が発生しているケースも少なくないのです。
M様も場合も、1億円程度の資産をお持ちであることから、親族が後見人になれる可能性は非常に低いと考えられます。後見制度を活用すると、後見人となる弁護士や司法書士など専門家への報酬の支払いも発生します。家族信託も導入の費用と手間はかかりますが、家族信託で来たる相続に備えられることをお勧めします。
②家族信託は認知症対策に有効
認知症予備郡の方も含めると日本には819万人の認知症の方がいらっしゃると言われています。これは65歳以上の高齢者の4人に1人が認知症もしくはその予備軍になる計算です。その原因は加齢で、90~94歳の約61%、95歳以上の約80%は認知症であるという厚生労働省の推計も存在します。
この数字からもわかるように、残念ながら健康な状態で長寿を全うできる確率は高くはなく、健康寿命と平均寿命の差は約10年と言われています。人生100年時代と言われている今、認知症になるリスクは軽視できないのです。
認知症になってしまうと、預貯金の引き出しや定期預金の解約ができなくなったり、不動産の売却や管理や売却ができなくなってしまったり、基本的に相続対策の一切ができなくなってしまいます。
先述のように遺言書は死後に効力を発揮しますので、遺言書では認知症対策を行うことはできませんが、家族信託を活用し、信頼できる家族に財産管理を託すこと(信託契約)で、財産の処分なども含めた柔軟な管理が可能になるのです。ひとりに任せるのは不安といった場合には信託監督人(身内もしくは専門家)を付けることもできます。
③家族信託は二次相続以降も資産承継者を指定することができる
先祖代々の資産は、自身の子から孫に継承してほしいと願われる方は多いのですが、M様の場合、ご長男の相続人は現時点ではご長男の奥様(N様)のみです。つまり、ご長男がM様より後、かつ奥様より先にお亡くなりになった場合、ご長男が受け継いだM家代々の資産は奥様であるN様が相続することになります。
遺言書の場合は、ご自身が亡くなった時に限って継承者を指定できるため、二次相続以降のことには関与できませんが、家族信託を活用することによって、例えばご長男の死後、その資産はご長女のお子様(M様の孫)に相続させるという風に、二次相続以降も資産継承者を指定することができるようになります。
まとめ
以上のように、家族信託を活用することで、遺言書では対応できない認知症対策や、二次相続以降の資産継承者の指定も可能になります。家族信託は導入時の費用や手間がネックとなって、まだ広く浸透してはいませんが、M様のように一定以上の資産をお持ちの方は是非検討いただきたいものです。
ご希望される方には専門家のご紹介も行っていますので、お気軽にお問い合わせください。